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「治ってない?」と何度も確かめることで、痛みを学習してしまうという話

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「治ってない?」と何度も確かめることで、痛みを学習してしまうという話

こんにちは、けんこうカイロプラクティックセンター 岩崎久弥(いわざきひさや)です。



最近、ニュースレターやnoteを更新してばかりいたので、ブログを書くのは久しぶり









痛みの確認するルーティン



「また今日も痛い…」「やっぱり治ってない…」 そう思いながら、毎朝ベッドから起き上がるとすぐに膝を動かしてチェック。腰を動かしてチェックしてしまう

そのたびに痛みが気になって、心がどんよりしていく——。

スポーツ選手が膝のケガからなかなか回復せず、治療に対しても不信感を抱きはじめている。そんな場面に立ち会うことがあります。

彼らは、毎朝起きるたびに「膝はどうか?」「腰はどうなっている?」と確認をくり返し、そのたびに「痛みが減っていない」「やっぱり治ってないじゃん」と落胆します。

でも実はこの「確認グセ」、回復を妨げる要因になっている可能性あります。







痛みは「脳」が学習する

脳科学の研究では、「痛み」は単なるケガや炎症のシグナルだけではなく、神経系が学習した結果として残ることがあるとされています。

たとえばApkarianらの研究(2009)では、慢性痛を抱える人の脳では、痛みに関連する脳領域が記憶や感情と強く結びついていることが報告されています。



つまり、繰り返し「痛みがあるかどうか」を意識して確認しつづけると、その痛みを脳が“覚えてしまう”のです。

これを「痛みの神経可塑性(Neuroplasticity)」と呼びます。



痛みが単なる感覚経験ではなく、学習・情動・認知を含む複雑な脳プロセスである
Apkarian, A. V., Baliki, M. N., & Geha, P. Y. (2009). Towards a theory of chronic pain. Progress in Neurobiology, 87(2), 81–97.

英文概要(原著より要約)

目的:

慢性痛の神経メカニズムを説明する理論モデルを提案し、痛みが単なる感覚経験ではなく、学習・情動・認知を含む複雑な脳プロセスであることを示す。

主なポイント: 1. 慢性痛は「感覚」から「状態」へと変化する

→ 怪我の治癒後も痛みが残るのは、脳の構造と機能が変化してしまうから。


2. 慢性痛患者の脳では前頭前野や扁桃体、海馬の活動が持続的に変化している

→ これは「記憶」や「情動(不安や恐怖)」との関係を強め、痛みの悪循環を引き起こす。


3. このような脳の変化は「神経可塑性(neuroplasticity)」によって起こる

→ 脳は経験によって変わる。痛みも学習される対象になりうる。


4. 痛みの主観的な強さと、脳活動の相関

→ 脳画像研究から、主観的な痛みの強さと前頭前野・前帯状皮質の活動に強い相関がある。


5. 慢性痛を理解するには、感覚・感情・記憶の統合モデルが必要である





回復への第一歩は「確認しない勇気」



もちろん、痛みがあるか気になるのは当たり前です。 でも、毎日毎朝「痛みチェック」を繰り返すことは、火に油を注ぐようなもの。

「今日は痛みのことは気にしない時間を10分だけ作ってみよう」そんな小さなチャレンジこそ、回復への大きな一歩になります。





まとめ

• 痛みはケガだけでなく、脳が記憶してしまうことがある

• 繰り返し痛みをチェックすると、痛みを学習してしまう

• まずは「確認しない時間」を意識的に増やしてみることが大切





膝の痛みを治すには、膝だけではなく「脳」へのアプローチも必要です。

不安な気持ちが強いときこそ、信頼できる治療者と一緒に「痛みの捉え方」を見つめ直してみてはいかがでしょうか。





けんこうカイロプラクティックセンターの慢性痛に対する考え方



当センターでは、痛みの部位に痛みの原因があるとは考えていません。

痛みは結果であり原因ではありません。



痛みの原因が、脳にインプットされた記憶にあるという考え方もします





◆ Apkarianらの研究(2009)のポイント



論文タイトル: Apkarian, A. V., Baliki, M. N., & Geha, P. Y. (2009).

“Towards a theory of chronic pain” (『慢性痛の理論に向けて』)

Progress in Neurobiology, 87(2), 81-97. ⸻



慢性痛とは何か?



慢性痛(chronic pain)とは、3ヶ月以上持続する痛みのこと。 一時的な炎症やケガとは違い、もはや身体の「傷」だけが原因ではない状態です。

脳のどこが関係しているのか?

Apkarianらは、慢性痛の人の脳をfMRI(機能的MRI)で調べたところ、 以下の脳領域が痛みと強く結びついていることを発見しました。

Screenshot



なぜ「記憶」や「感情」とつながるのか?

慢性痛患者では、痛みに関わる脳の領域が、感情や記憶に関わる領域と

神経的に“つながって”しまっている(機能的結合が強まる)ことが確認されています。

これにより、

• 少しの刺激でも痛みが強く感じられる

• 痛みを「不安」「恐怖」として覚えてしまう

• 毎日同じように「痛いかどうか」気にすることで、さらに痛みが定着する



という悪循環が起こりやすくなります。

まとめ:この研究が教えてくれること



Apkarianらの研究は、痛みを「脳の感情ネットワークが学習する現象」として捉える重要な視点を与えてくれます。

✅ 慢性痛は単なる身体の異常だけではない

✅ 脳が「痛みの記憶」や「感情反応」を学習している

✅ 「痛みへの意識」「不安」「注意」が回復を妨げる









けんこうカイロプラクティックセンターの慢性痛に対するアプローチ



次回のブログで紹介します。







※参考文献(英語)

Apkarian, A. V., Baliki, M. N., & Geha, P. Y. (2009). Towards a theory of chronic pain. Progress in Neurobiology, 87(2), 81-97.

Screenshot