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【筋肉にもPTSDがある?】慢性痛とEMDRの意外な関係を専門研究から徹底解説

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【筋肉にもPTSDがある?】慢性痛とEMDRの意外な関係を専門研究から徹底解説

慢性痛には、組織の損傷だけでは説明できないケースがあります。痛みへの恐怖、過去のけがの記憶、動作の回避、筋肉の過緊張などが重なり、痛みが長期化することもあるためです。こうした背景から、トラウマ治療として知られるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)を慢性痛に応用する研究が進められています。

この記事では、EMDRと慢性痛の関係を、「不適応な学習」と「神経系の調整」という観点から解説します。あわせて、近年提唱されている「筋肉のPTSD(mPTSD)」仮説と、その治療手順についても、エビデンス上の限界を含めて整理します。


PTSDとは

PTSDは、Post-Traumatic Stress Disorderの略です。
日本語では、心的外傷後ストレス障害と訳されます。

Post-Traumatic:トラウマ体験の後に
Stress:強いストレス反応が
Disorder:生活に支障をきたす状態


事故、災害、暴力などの強い体験後に、フラッシュバック・悪夢・回避・過度な警戒などが続く状態を指します。





最初に大切な注意点
「筋肉のPTSD(muscular PTSD/mPTSD)」は、現時点では一般に承認された医学的診断名ではありません。

EMDRとは

EMDRは、つらい記憶やイメージを思い浮かべながら、左右の眼球運動、交互の音、交互のタッピングなどを用いて記憶の再処理を促す心理療法です。



主にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療として利用されています。単に目を左右に動かすだけの方法ではなく、安全性の確認、治療計画、準備、記憶への働きかけ、身体感覚の確認、終了時の安定化などからなる構造化された心理療法です。

なぜ眼球運動が使われるのか

EMDRの作用機序は完全には解明されていません。有力な説明のひとつが、記憶を思い出す作業と眼球運動を同時に行うことで、限られたワーキングメモリの容量が使われ、記憶の鮮明さや感情的な強さが低下するという仮説です。



一方、「眼球運動が記憶の再固定化を直接阻止する」「扁桃体の活動を必ず抑制する」といった断定は、現在の研究からはできません。脳、自律神経、注意、情動調整など複数の仕組みが関与している可能性があります。

EMDRと慢性痛の関係

慢性痛は、けがや炎症だけで決まるものではありません。痛みに対する恐怖、注意の集中、睡眠不足、抑うつ、不安、過去の医療体験、トラウマなどが痛みの感じ方や生活上の支障に影響します。

不適応な学習という視点

強い痛みを経験すると、脳は特定の動作や場所を「危険」と学習することがあります。組織が回復した後も、動こうとすると怖さや緊張が生じ、動作を避ける状態が続くことがあります。

この流れは、次のように説明できます。

痛み・けがの経験

「この動作は危険」という学習

恐怖、筋緊張、動作の回避

体力・可動性の低下

さらに痛みを感じやすくなる




EMDRでは、痛みそのものだけでなく、発症時の恐怖、けがの映像、治療中のつらい体験、将来への不安などを処理対象にすることがあります。これにより、痛みに伴う情動的苦痛や回避行動が軽減する可能性があります。

自律神経との関係

慢性痛やPTSDでは、覚醒の高まり、睡眠障害、動悸、呼吸の浅さ、過度な警戒などがみられることがあります。これらには自律神経系も関与します。

EMDRによってトラウマ関連の苦痛や過覚醒が軽減すれば、結果として身体の緊張や自律神経反応が落ち着く可能性があります。ただし、「左右交互刺激だけで自律神経の乱れが正常化する」とまでは証明されていません。

「筋肉のPTSD(mPTSD)」とは

「筋肉のPTSD」は、ストレス、痛み、けが、失敗などの経験が特定の筋活動と結びつき、脳がその筋肉の使用を抑制するようになるという仮説です。

提唱者は、構造的な損傷が見つからないにもかかわらず、特定の筋肉に力が入りにくい状態を「筋肉の抑制」と捉えています。そして、筋力テストで抑制状態を活性化した直後に左右の眼球運動を行うと、筋出力が変化する可能性があるとしています。




眼球運動を用いた研究例

報告された基本的な手順

仮説研究では、おおむね次のような流れが用いられています。

  1. 徒手筋力テストにより、力を維持しにくい筋肉を探す
  2. 対象筋をもう一度収縮させ、その反応を評価する
  3. 評価の直後に、左右方向の眼球運動を行う
  4. 同じ条件で筋力を再評価する
  5. 一定期間後にも再評価し、変化が維持されているか確認する



報告されている数値

提唱者の報告では、眼球運動直後に評価対象となった筋肉の約91%で筋力テスト上の改善がみられ、そのうち約84%で平均15日後にも改善が維持されたとされています。

この数値は「一般的な慢性痛患者の90%が治る」という意味ではありません。筋力評価を受けた筋肉単位の結果であり、盲検化、対照条件、測定者による影響、再現性などを慎重に検討する必要があります。

なぜ結果を慎重に解釈する必要があるのか

徒手筋力テストは、検査者が加える力、姿勢、声かけ、被検者の理解、痛みへの不安、練習効果などの影響を受けます。したがって、眼球運動後に力を保てるようになったとしても、それだけで「筋肉に保存されたトラウマ記憶が消去された」と証明することはできません。

より確かな検証には、測定者を条件から隠す盲検化、偽の刺激との比較、筋電図や機器による筋力測定、長期追跡、別の研究チームによる再現が必要です。

臨床現場で想定される評価と治療の流れ

現時点では、mPTSDだけを根拠に自己治療を行うのではなく、慢性痛の標準的な評価に、必要に応じてEMDRを組み合わせる方法が現実的です。

ステップ1:医学的な原因を確認する

筋力低下や痛みがある場合は、まず整形外科・神経内科・ペインクリニックなどで、骨折、神経障害、炎症、感染症、腫瘍、血管障害などを除外します。

突然の筋力低下、麻痺、排尿・排便障害、発熱、原因不明の体重減少、胸痛、激しい頭痛などがある場合は、EMDRよりも先に速やかな医学的評価が必要です。

ステップ2:痛みと動作の関係を評価する

医師や理学療法士などが、次の点を確認します。

  • 痛みの場所、強さ、持続時間
  • 筋力、関節可動域、神経学的所見
  • 痛みが強まる動作と軽くなる条件
  • 痛みへの恐怖や回避行動
  • 睡眠、疲労、ストレス、仕事や生活への影響
  • 過去のけが、事故、手術、医療体験

ステップ3:EMDRが適しているかを判断する

痛みの発症時に強い恐怖を経験した、事故や手術の記憶が繰り返しよみがえる、再受傷への恐怖が強いといった場合は、EMDRが選択肢になる可能性があります。

ただし、解離症状、重い自傷リスク、精神病症状、著しく不安定な生活環境などがある場合は、記憶処理の前に安全確保や安定化が必要です。

ステップ4:準備と安定化を行う

EMDRでは、いきなり最もつらい記憶を扱うとは限りません。治療者との信頼関係を作り、現在の安全を確認し、呼吸、注意の切り替え、落ち着けるイメージなどを練習します。

ステップ5:痛みに関係する記憶を再処理する

専門家の管理下で、たとえば次のような対象を扱います。

  • けがや事故が起きた瞬間の記憶
  • 強い痛みを経験した場面
  • 治療や手術に伴う恐怖
  • 「動いたら壊れる」というイメージ
  • 将来も治らないのではないかという不安
  • 痛みとともに現れる不快な身体感覚

対象を短時間意識しながら左右交互刺激を行い、その後に浮かんだ感情、イメージ、考え、身体感覚を確認します。このサイクルを、苦痛が十分に下がり、より適応的な認識を持てる状態になるまで繰り返します。

ステップ6:動作を再学習する

記憶に対する苦痛が軽減しても、筋力、持久力、身体の使い方が自動的に回復するとは限りません。必要に応じて、理学療法、段階的な運動、ペーシング、睡眠への介入などを組み合わせます。

ステップ7:再評価する

痛みの数値だけでなく、歩行時間、仕事や家事、睡眠、運動への恐怖、薬の使用、生活の質などを確認します。一時的な筋力テストの変化だけで治療効果を判断しないことが重要です。

AMITやアプライド・キネシオロジーとの違い

AMIT(Advanced Muscle Integration Technique)では、筋力テスト、反射点への刺激、筋肉や腱への手技、経穴への刺激、脊椎や関節への施術などを組み合わせることがあります。

方法 主な目的 現在の位置づけ
EMDR つらい記憶や関連する感情・身体感覚の再処理 PTSDへの心理療法として確立。慢性痛への応用は研究途上
理学療法・運動療法 筋力、可動性、持久力、動作への自信の回復 多くの慢性痛で標準的に用いられる
AMIT/アプライド・キネシオロジー 筋肉の抑制とされる状態の発見・修正 手法全体の有効性を裏づける質の高い研究は限定的
mPTSDプロトコル 眼球運動による筋力テスト上の変化 仮説段階であり、独立した追試が必要

スポーツ選手の症例について

ジョン・ストックトン選手の足首捻挫や、ユタ・ジャズの負傷欠場数に関するエピソードは、施術者の報告や本人の回想として紹介されています。

しかし、1人の回復例から施術の効果を確定することはできません。また、チームの欠場数には、選手構成、出場方針、トレーニング、医療体制、記録方法など多くの要因が影響します。

慢性痛に対するEMDRの研究結果

2014年の系統的レビューでは、慢性痛に対するEMDRが痛み、気分、生活上の支障を改善する可能性が報告されました。

2025年に公表された系統的レビューでは、7件のランダム化比較試験を含む9研究が検討され、慢性痛へのEMDRの可能性が示されました。た

現在の妥当な結論
EMDRは、特にトラウマ、痛みへの恐怖、侵入的な記憶、強い情動的苦痛を伴う慢性痛に役立つ可能性があります。ただし、身体疾患の診断やリハビリテーションに代わるものではなく、包括的な治療の一部として検討する段階です。
自己流の実施について
つらい記憶を一人で強く想起しながら眼球運動を行うと、感情や身体反応が一時的に悪化することがあります。慢性痛やトラウマ症状に対するEMDRは、訓練を受けた専門家の評価と支援のもとで行ってください。

まとめ

EMDRと慢性痛は、「過去の痛みや恐怖に関する学習を再処理する」という点で関連づけられています。痛みへの恐怖やトラウマ反応が軽減すれば、筋緊張や動作の回避が減り、生活機能の改善につながる可能性があります。

一方、「筋肉のPTSD」という考え方や、筋力テスト直後の眼球運動で筋肉が回復するという方法は、興味深い仮説ではあります。

慢性痛の治療では、医学的評価を出発点として、運動療法、心理療法、生活調整、必要な薬物療法などを組み合わせることが大切です。EMDRは、そのなかでもトラウマや痛みに対する恐怖が強い人にとって、検討する価値のある補助的アプローチといえるでしょう。

参考文献・関連資料

  1. Tesarz J, et al. Effects of eye movement desensitization and reprocessing treatment in chronic pain patients: a systematic review. Pain Medicine. 2014.
    PubMedで確認する
  2. Singla A, et al. Eye Movement Desensitization and Reprocessing for Chronic Pain: A Systematic Review. Journal of Integrative and Complementary Medicine. 2025.
    PubMedで確認する
  3. van Veen SC, et al. Degrading traumatic memories with eye movements: a pilot functional MRI study in PTSD. European Journal of Psychotraumatology. 2016.
    PubMedで確認する
  4. Mazzola A, et al. EMDR in the Treatment of Chronic Pain. Journal of EMDR Practice and Research. 2009.
    論文情報を確認する
  5. Weissfeld D, et al. Mind, Trauma & Muscle Inhibition: Muscular PTSD. Part I/Part II. 仮説論文。
    Part Iを確認するPart IIを確認する

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や個別の治療を行うものではありません。痛み、筋力低下、しびれなどがある場合は、医師などの医療専門職へご相談ください。


ドクターオブカイロプラクティックの学位を有する、けんこうカイロプラクティックセンターの院長岩崎久弥(いわざきひさや)にぜひご相談下さい。